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そうだ、夜の仕事はもっと時給がいいものを探そう。体力勝負の仕事ならきっともう少し金が稼げるはず。今の自分がキツい仕事に耐えられるかは不明だが、やってみなければ分からない。
あとは何ができるだろう、何をすればいいんだろう。
彼は立ち上がって冷蔵庫へ向かった。もう酒は入っていないことはわかっている、娘のために買っておいたジュースすら飲むのが勿体無いと感じた。水道水でも口にしようか。
そう考えて振り返った時、彼の背後に人が立っていたのに気がつく。
「なんだ……起きていたのか」
そこにいたのは7歳になった娘だった。妻が死んだ時より当然だが成長し、顔の印象が随分と変わった。これではオンラインで会った時、妻は驚くだろうなと想像し少し笑う。
娘はもう夜中に泣き出すようなことはなかった。小学校が始まって気が紛れたのもあるが、それはやはり時間の経過という最大の癒しがあったからだ。
娘は両手を後ろに隠し、男に近づいた。
「どうした、もう寝る時間だ」
彼がそう話しかけると、彼女はニコリと笑った。そしてうわずった声でこう述べた。
「あのね、パパ! ママからお手紙が届いたの!」
男は一時停止した。白い歯を出して笑う少女を見る。
「なん……だって?」
「ママからね、お手紙が届いたんだよ! びっくりでしょう?」
ぐるぐると頭が混乱する。死者と会話ができる天国オンライン、そこに手紙の制度などなかったはずだ。あれから欠かさずホームページを見つめているのだから間違いない。
男はしゃがみ込んで娘に聞いた。
「どうやって届いたの?」
「今日朝起きたら、枕元にあったの! パパ、見て!」
小さな手が差し出した苺の絵の封筒を震える手で受け取る。
まさか、そんな。なぜ?
彼は言葉を失くしながら、中に入っていた手紙を取り出した。
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