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「あれ…?」
送信を押した後、願いを反芻し終え目を開けると、携帯の画面が急に暗くなりっていた。壊れたかと焦って電源を押してみると画面が表示されてほっとしたが、何故かアプリは強制終了されていた。
今から5分ほど前、あの女性3人組から少し離れたベンチで、真島は宇宙神社のアプリをインストールして衛星が通過する瞬間を待ち構えていた。
何となく、宇宙船に閉じ込められた神様を見たくなったのだ。
地上から見える筈はないけど、参拝する人もいない孤独な神社を守る神様を、一瞬くらい気にしても良いと思った。
あと少しで通過するらしいが、願いはどうしようか。
正直願いなどない。信心はないし、藁にも縋って何かを祈るような殊勝な人間ではない。顎に手を当ててしばらく考える。
「あ、これでいいか」
ぱっと思いついた願いに決めた。
予めアプリに願いを入力しておき、その瞬間を待ちわびる。
アプリがピコンと光ったと同時に、真島は"御祈禱依頼"を送信した。
『神様の願いが叶いますように』
真島は目を閉じ、柄にもなく無心に祈った。
■■■
暖かな太陽の下。
私の本体は瞬く間に木端微塵になった。
あんなに厳重な箱に閉じ込められていたのは、この凄まじい圧力から守るためだったのだと漸く理解する。
壊れたからどうということはない。私にとって、身体など然程重要なものではない。
神にとって、本体―依代など別になくとも問題はないのだ。
しかしどうして、数百年ぶりの解放はなかなか心躍る。
さて、愛しの地上に戻る前に、あの灼熱の太陽を見物してこようか。
地上の人間の願いを聞くため戻るのは、その後でもよいだろう。
自分の為に祈ってくれた人間の幸運を願い、元神像は軌道から浮き上がり、遥かなる宙へと溶けていった。
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