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轟音と上下左右の激しい揺れが収まると、ようやく周囲を見回す余裕ができた。
狭く暗い箱には変わりないが、騒音と揺れがなくなっただけで随分違う。
やれやれ。
神像は箱の中から外を眺められる位置に据付られていた。
きっと"空から神様が見守ってくれる"ということなのだろう。昔から、人間というのは空に神が居るものと思っている。実際像に宿った私のような神は、空に居る訳ではない。なのにまさか私が空―宇宙に送られる最初の神になろうとは。
聞いていた話によると、私のコピーがここに来る筈だったのに何故こうなったのだろうか。訪れる人もなく、祝詞の声もなく、埃を払い世話をする人間の居ない無機質な箱の圧迫感に嘆息しそうになる。これから先、ずっとここで何をすればよいというのか。灯りがついているのは有難いが、生物の居ない空間は冷たく寒々しい。金属でできた我が身が言うことではないが、矢張り温かみのない空間は空疎だ。
そんなことをつらつら考えていると、斜め下に置かれていたパネルが突然発光した。
"御祈祷依頼 1件"
「…?何だこれは」
パネルにはそんな文字が浮かんでいた。無聊を宥めるための仕掛けだろうか。そのまま見続けていると、突然新しい文字列に切り替わった。
"世界が平和になりますように"
もしかして、これはいつもの『お願い』というやつだろうか。
地上に居た頃は、時々人が来ては私の前で祈り―様々な願いを乞うてきた。病が治りますように、出世できますように、好きな人に好かれますように。いつの時代もそんなに変わらない素朴な願いを聞き、何も答えない私の前で一心に祈ったあとの人々が見せる晴れ晴れしい笑顔、安心したようなほっとした顔を見るのが好きだった。その場で願いが叶った訳でなくとも、願いを届けるだけでも心の荷物を下ろせるのだろう。
しかし、これはどうなのだ。
声に出さない真剣な祈りの声の代わりに、無機質な文字が羅列される。
一体どんな人間が、どんな気持ちで祈ったのかこれではわからない。暫く思案するうちに、その文字列は消えてしまった。
その日を境に、パネルは発光を繰り返しながら怒涛の勢いで"御祈禱依頼"を連発するようになった。
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