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人間というのは勝手だ。
神像はパネルにひっきりなしに羅列される"御祈禱依頼"を虚ろな眼差しで見つめ続けた。
最初こそ一つ一つ丁寧に見ていたものの、明らかに冷やかしのような言葉もあり、温度を感じない、願った者の顔の見えない願いはどれも似たり寄ったりでだんだんと熱意を失っていった。
仮にも何百年と人間の願いを聞き届けてきた神が、そう簡単に役目を放棄しようとは思わないが、神というより苦情処理係のような作業には飽き飽きする。
誰も手を合わせない、供え物もしない、祝詞の声もない、四季や温度のない空間はこの金属の身体を芯まで凍らせるようだ。
せめて、暖かな火や太陽の光を感じたい。
地上よりも太陽に近いのに、この箱にその恩恵は届かない。
「…ん?」
似たような願いを延々と流すパネルの表面に違和感を覚え、表示された画面を二度見する。
いま、妙な願いを見たような。
もう一度見ると、其処にはこんな文字が書かれていた。
"神様の願いが叶いますように"
書き間違いだろうか。自分ではなく、この私の願いが叶うように祈る人間など、生まれてから一度もいなかった。もう見ようともしていなかった地上を窓から覗くと、一人の人間が困ったような顔で真剣に祈っているのが見えた気がした。
ふと身体が持ち上がるのを感じる。
私の身体はいつも地上が見えるように固定されているはずなのに。
驚いていると、狭い箱ー船内が突然ミシミシと大きな音を立てはじめた。安定して飛んでいたからずっと感じなかった振動を急に感じる。これは。
「私の願いを叶えようとしているのか」
もう一度光の下へ出たい。
暖かい場所へ戻りたい。
期待に心を躍らせたその瞬間、私は身体が押し潰されるような衝撃と同時に真っ暗な宇宙空間へ投げ出された。
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