後ろ向き

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後ろ向き

 仕事で出会った、Iさんという方から聞いた話です。  Iさんは数年前、今とは別の職場で働いていました。  そこは、いわゆるブラック企業というやつで、サービス残業は当たり前。何か文句を言おうものなら、きついパワハラを受けるという、劣悪な環境でした。  精神的に追い込まれてしまったIさんは軽い鬱状態になり、 「いっそ、もう楽になりたい」  と、自殺を考えるようになりました。  どこで死のうか、どうやって死のうか、どうすれば楽に死ねるのか。そんなことばかりを考える日々が続きました。  ある日の夜、Iさんが終電で帰ってきたとき、住んでいるマンションの前に人だかりができていました。パトカーや救急車まで停まっています。  野次馬の一人に何があったのかと聞くと、どうやら、屋上から人が飛び降りたらしいのです。遺書が見つかったそうで、自殺したのは、同じマンションの住人だということも分かりました。  それを聞いて、Iさんは心を突き動かされる思いがしました。 「私も死にたい。こんな地獄みたいな生活から解放されたい」  なんとなく、先達がいるという安心感のようなものもあったのでしょう。
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