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最期の時
最後の奇跡。
「ううっ・・・・」
美桜は意識と生命を絶たれながらも、衛の身体に僅かに腕を伸ばす。
「うっ・・・・・」
衛も倒れた状態から微かに指先を動かし、美桜に触れる。
2人は生きていた。
だがそれは数秒の奇跡、命は一瞬で途絶える。
「ほう、これは面白い」
その様を、消えたはずの夢幻が石碑の上で眺めていた。
「ほんの僅かであるがオレの力を超越し、死をも乗り越えるとは感服したぞ、人間。異例だが、オレからお前達2人へのプレゼントをやる」
驚く衛。
「2分だけ生かしてやろう。その間に、思いの丈の語るがいい」
夢幻はそう言って、
「パチン!」
と指を鳴らした。
同時に2人に生気が宿る。
起き上がった衛と美桜は、お互いを見つめ合う。
「・・・美桜さん」
「衛君・・・」
そして、衛と美桜はお互いに涙を流し、喜びを分かち合うように抱き合った。
「美桜さん。助かって長生きしてくれたんだね」
「ごめんなさい、ごめんなさい。衛君、私のせいで・・・、本当にごめんなさい」
美桜は涙声で必死に謝る。
衛は身体を僅かに離し、彼女をジッと見つめた。
死を迎える前に今一度、美桜の姿を目に焼き付けたかったからだ。
美桜はその視線に耐えられず。
「お婆ちゃんになったから、驚いたでしょ」
恥じらいから、咄嗟に髪を耳に掛ける癖が出た。
その仕草を見て、衛は微笑む。
「そんなことはない。君が生きてくれただけで、僕は嬉しいんだ・・・」
衛は笑ってほしかった。
泣き顔よりも、笑顔を見たかった。
だが、美桜は俯いたまま。
そのやり取りを見ていた夢幻は、
「全く世話のやけるガキ共だ」
と面倒くさそうに、
「パチン!」
指を鳴らした。
すると美桜の姿が急激に若返り、13歳の頃の彼女へと戻る。
美桜は嬉しくて笑い、微笑む。
その笑顔を目にした衛は、最後の願いが叶ったことに大いに喜び、夢幻に心から感謝した。
「ありがとうございます!」
美桜も同様に、
「ありがとうございます!」
感謝した。
再び抱き合う2人。
長い歳月を経て、衛と美桜ようやくは結ばれたのだ。
1分はあっという間だが、2人にとっては全てを語り合える掛け替えのない時間だった。
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