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少し時間がたち、皆を帰そうかと考えていた時。
「イタッ」
そう言う声が聞こえ、私はすぐさまそちらを見た。
そこには三ヶ月前に入った結城さんが倒れていた。
その前には波木が心配そうに佇んでいる。
「ごめん…結城さん」
その声を聞く限り、波木と結城さんの組手の最中に波木が勢いよく投げ飛ばしたとでもいうところか。
小走りでそちらに駆け寄り、結城さんの状態を探る。
大丈夫か、そう言おうとして私はハッとした。
『これは投げ飛ばした程度じゃない』
彼女が押さえている右の足首は、もう既に赤く腫れ上がっている。
「奏多君!ハンカチ濡らしてきてくれる?」
私は近くにいた同期の男子にそう言って懐から取り出したハンカチを投げた。
「水道はどこですか?」
「角曲がってすぐにお手洗いがあるからそこで!」
そう言うと彼はすぐに道場を飛び出していった。
押忍と言うのは忘れなかったが。
私は青ざめた顔で立っている幼なじみの方を向いた。
「波木、お前は先に帰ってろ。」
「いや、でも。」
そう口籠る波木に私は傘立てに入っている自分の青い傘を指して
精一杯の笑顔で言った。
「雨降るらしいから洗濯物取り込んどいて。」
そういうと彼は今にも倒れるんじゃないかと
心配する程の面持ちでよろよろと道場から出て行った。
私は結城さんを道場の端にメンバーの力を借りながら連れて行き、
心配するメンバーをやっとの事で宥め終え、
帰らせた。
入れ替わりに奏多君が入ってきて、結城さんの足に濡れたタオルを巻くと、
「何か手伝いましょうか」
と言ってくれたが、「明日も早いから」という事を話すと、
懐からチョコレートを出して私たちに渡し、
「頑張りすぎないように」
と一言だけ言って帰って行った。
私は意を決してそっと結城さんを持ち上げた。
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