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勢いを増す雪に、石畳の上はうっすらと白く染まり始めていた。
買い物客の往来が耐えない商業区も、今は降り積もる雪に合わせてしんと静まり返っている。まるで世界から切り離されたかのように、音さえも雪に包まれて落ちていくようだ。
無音のまま降り積もる白い景色の中、反する漆黒が空き地の前に佇んでいた。様々な店が立ち並ぶ一角に、そこだけが不自然に一軒分だけ空いている。以前どんな店が建っていたのかは知る術もないが、雪に紛れて微かに古びた本の匂いがした。
「お待たせ」
空き地の前に佇む黒衣の男に、同じ黒いコートを羽織った女が小走りで駆け寄ってくる。雪に足を取られないか心配して手を差し出せば、女はもう躊躇う素振りもなく男の手を握りしめた。
「もう済んだのですか?」
「うん。我が儘を聞いてくれてありがとう。ちゃんと、お別れしてきた」
「それは何より。体は?」
「もう、レヴィン心配しすぎ。体も大丈夫よ。人でいる時より感覚が鋭くなってるから、時々目眩がするくらい。そのうち慣れてくるわ」
「君を心配するのも、私の特権ですからね」
さらりと口にすれば、握りしめた手を引き寄せて。レヴィリウスは自身の羽織るコートの中へ、ルシェラの体をすっぽりと包み込む。
「ちょっ……レヴィン! 人の目があるからっ、こういうのは……」
「大丈夫。私たちの姿は彼らには見えませんよ」
それならいいかとルシェラが身を委ねかけた時、ちょうどすれ違った若者が口笛を吹いて囃したてる声が聞こえた。
「見えてるじゃないの!!」
「おや、そうでしたか?」
恥ずかしさに身を捩ってみても、レヴィリウスは素知らぬ顔で微笑んだまま、片腕に抱いたルシェラの体を一向に離そうとはしない。菫色の瞳が楽しげに揺れ、レヴィリウスの唇から小さな笑い声が零れ落ちた。
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