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「しかし、よくその名前でよくIT系に進もうと思わなかったものだね? 恩来院くんは」
「ええまぁ、もう、この名前ですから逆にですね。なんだか逃げる感じになりましたね。まぁ、オンラインで」
「それで今はオンライン記者なわけだ」
「ええ、まぁ、オフラインな大手新聞社には落ちちゃいましたんで、しがないオンラインジャーナルですけどね」
「いやいや、それこそ恩来院くんの、恩来院精霊としての実力が発揮されるところじゃないか。オンライン奨励。うん、悪くない」
紙の新聞はどうせ駆逐されるだろう。
ていうかああいう古い組織はやばい。
苦境にあえいでいるとか言うくせに、五〇代のおっさんの給料聞いたら目ン玉が飛び出た。お前ら若手何人分の仕事出来てるつもりなんだよ。
まぁ、オフラインかオンラインかじゃねぇな。まともに給料に見合った仕事してるかどうかだよな。
うん、普通に滅びろ。
あ、ブーメラン飛んできた。やべ。
「そこで先生の次のオンライン記事の内容をですね〜」
「……その話はさっき聞いたから」
僕がとりつく島もない感じで拒絶する。
次の記事のアイデアをいくらせっつかれても出ないものは出ないのだ。
すると恩来院は泣きそうな顔を作った。
オンラインの画面越しに。
彼の顔が突然、モノクロに変わった。
次にその周りが額縁で囲まれる。
遺影みたいに。――悲しそうな遺影みたいに。
「エフェクトやめろ」
「あ、バレました?」
「バレないわけないだろ」
「いやぁ、拡張機能でエフェクト使って遺影になった方が先生の心に響くかなーと」
「小賢しいわ」
とはいえ先日、独身の女流作家とオンラインで対談した際に彼女が美肌エフェクトなどを多用していたためにもの凄く若く見えて惹かれてしまった。
年齢を十歳くらい若く見積もって「えー、見えないですねー」とか言ってしまったし。
正直、話に聞く限り、本人の実物は年相応らしい。
リアルで会うときに気まずいな。
――まぁ、どうせオフラインでなんて会わないから、いいか。
次にあうのもどうせオンラインだ。
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