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ヴァーチャル美少女の眉がキリリと寄る。
「――先生、これですよっ! まさにこれこそオンとオフの切り替えが難しいという実例であり――」
「――あ、そうね。うんそう言うことにしておこう」
面倒くさくなってきたので、さらっと流した。
仕事中にお酒はよくないよ。恩来院くん。
「しかし、恩来院くん。君はどうしてアバターを美少女にしているんだい? 君は男だろ」
「え、先生、何を言っているんですか? 私は男じゃありませんよ。女ですよ?」
「なに? しかし、編集長から君を紹介された時には、確か男性だって……あれ、違ったかな?」
「うーん。編集長の言葉なんて覚えてないですからねー。あ、Zoomの録画確認してみます? 過去の会議は大体レコーディングで残っていると思うので、探せば見つけられると思いますよ?」
「いいよ、別に。面倒くさい」
Zoom会議のレコーディングは気休めになるけど、自分で見返そうとはまず思わんよな。
普通の人間の雑談を動画で見せられるほど虚しいものはない。
あれ、みんな、どうしてんの?
「――でも、君の声は低いじゃないか。女性にしては」
「あー、ボイスチェンジャー使っていますので」
「何でまたそんなことを……」
「だって女声って、仕事する時に甘くみられることがあるんですよねー。だからまぁ、ちょっと低く男っぽくしようかなって」
「わからんでもないが、じゃあ、なんで美少女アバターなんだ?」
「可愛いから」
「……あのなぁ」
「え、可愛くないですか? この子、可愛くないですか?」
「いや、まぁ、可愛いけど」
一貫性! 一貫性をください!!
「――でもまぁ、性別なんてどっちでも良くないですか? 仕事する上で」
「まぁ、そうだが。ジェンダー論か。ふむ」
オンラインになって、ジェンダーの話も、いろいろ影響を受けるのかもしれないなぁ。
「仕事はいいけれど、やはり恋愛とか、そういうのはやっぱり性別も関係するし、オンラインだと難しい面もあるんじゃないかな? 恩来院くん」
「――何故ですか?」
「まぁ、キスとかセックスとか……そういうだねぇ」
「え、先生、セクハラですか?」
「違うから! 普通に議論の流れででしょ!?」
「キスとか、……実は私としたいんですか? 先生?」
「男声で言われても微妙だから、暫定的に否定しておく」
「じゃあ、これなら?」
と言って聞こえたのは、明らかに女性の声だった。
でもなんとなく不自然でちょっと加工音っぽかった。
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