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「――ていうか君。こっちの方がボイスチェンジャーっぽいよ?」
「ひどい! 先生ひどい! 高校生の頃からハスキーだとか、声が割れてるとか言われてきましたけれど、……気にしているのに」
「あ、それはすまん。ごめんごめん」
でもなんだか納得いかない感もある。
しかしなんだ。
AI技術で音声変換も画像変換も自由自在な今の時代となっては、性別特徴なんてのも、ほとんど意味なくなるんだろうな。
オンライン上って、ほんとリベラルね。
「でもやっぱり生殖行動だよね。オンラインじゃ、ちょっと難しい」
「セックスについては精子を女性の元へ運んで、リモートキットでオンラインでセックスするなんてシステムとビジネスモデルも考えられているらしいですけどね」
「マジかね? なにその近未来? ……でも、運ぶところは泥臭く輸送なんだね」
「まぁ、それはAmazonとかオンラインショッピングでも一緒じゃありません? 先生」
「まぁ、たしかにそうだなぁ。そっかぁ、じゃあ、セックスもオンラインになんだね。キスは?」
「キスが盛んな欧米では、もう今でも、画面越しにキスしているみたいですよ。そもそもキスは生殖行動に関係のない文化的なものですしね。なんとでもなりますよ」
「なるほど。君は本当に博識だね、恩来院くん」
「いえいえ、私の知っているのは最近の事情の断片だけ。体系的な知識をお持ちの先生には敵いませんよ」
うん、まぁ、そう言われると、満更でもない。
ていうか、それで勝てなかったら、僕が先生でいることのアイデンティティ崩壊だからね。
「ところで先生、そろそろオンライン雑談にも区切りを打ってオンラインジャーナルの話をしましょう。それが本日のオンライン会議の目的になります」
「ああ、そうだなぁ。締め切りは一ヶ月後だったか」
「そうですね。それまでに何かアイデアが浮かぶといいのですが」
「だねぇ。でも、今日は面白いオンラインミーティングだったよ」
「そうですか? 適当な雑談しかしていなかった気がするんですけど」
「いやあ、一番驚いたのは恩来院くんが女性だったということかな?」
「え、そこですか? 仕事や原稿の話と全く関係ないじゃないですか!?」
「そうかなぁ、そうでもない気がするんだけどなぁ。いつも君と話しているのは面白いのだけれど、やっぱり、君が女性だと認識したコンテクストの上で、この一連の会話を捉えると、また一段と味わいがあるのだよ……」
「……先生、あんまりそういう性差みたいな話をしていると、うちのジャーナルに連載持っているご高明なフェミニストの先生から爆撃食らいますよ」
「いいじゃないか、そこでいい感じにディベートが起きたら読者は面白がるんじゃないかな?」
「先生……流石のメンタルタフネスですね」
「そりゃ、君、メンタル強くないとこんな商売やっとれんよ」
「あー、わかりみ」
画面の中で美少女のアバターが頷いた。
オンラインで繋がる恩来院さんと僕。
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