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もうこの美少女アバターが彼女の存在そのものみたいに思えてきていた。
でもやっぱり、このDXなご時世になっても生身の肉体というのは認識してみたいと思うのだ。
そしてやっぱり、生身の肉体こそが本物だと思ってしまうのだ。
「君みたいに僕の話にいろいろと乗ってくれて、話を広げてくれる女性にはであったことがないからね。本当に興味が湧いたんだよ。――君という存在にね。――恩来院精霊さん」
「――先生、……恐縮です」
僕はそこで咳払いする。
僕というか僕のアバターが。
「そこでだ。恩来院くん。僕の望みを聞いてはくれないか?」
「……なんでしょう? 先生のお願いなら出来るだけ担当として叶えたいとは思いますが」
「なに、シンプルなことさ。僕は君のアバターでなくて君自身の顔を見てみたいんだ。そしてボイスチェンジャー無しで、君と顔を合わせて話してみたいんだよ!」
「……え、それは……」
躊躇うオンラインの恩来院さん。
「――やっぱり、ダメなのかい?」
大体、アバターを好んで使うということは自分の容姿に自信が無いことが多いのだ。
だからつまりはそういうことなのだろう。
なので無理強いは良くない。
でも好奇心はわくわく。
「――ダメではありませんが……。では代わりに、私もひとつお願いをして良いでしょうか?」
「なんだい? 言ってみたまえ」
「先生もアバターを解除して、私に現実世界における先生の姿形を見せてくださいよ。私、まだ先生の顔を見たことがないんです! 担当なのに!」
「――なんだ、そういうことか。良いだろう。これほど対等な交換条件もあるまい」
「――交渉成立。良かったです。では『いっせーのーで』でカメラ切り替えですよ? 良いですね? 先生!」
「ああ、良いだろう。――望むところだ」
僕はマウスに指を掛ける。
二人でタイミングを合わせた。
「「いっせーのーでっ!!」」
僕はカメラボタンをクリックする。
彼女も――。
そしてZoomの画面はそれぞれのカメラ画像に切り替わった。
その映像を見て、僕と恩来院さんは同時に息を飲む。
「恩来院くん――綺麗じゃないか……」
「先生――って、イケメンだったんですね!」
どストライクだった。
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