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カレーを食べ終えた食器とスプーンと、サラダに使ったお箸を一揃い洗って、あたしはお風呂の準備に取り掛かる。
穏やかに流れる時間。
ゆっくりと過ぎ去る毎日。
仕事の忙しさも、街の喧騒も気にならない日々。
娘はロープに自分の体重を一点にかけてぶら下がり、ユラユラ揺れながら、漆黒に揺らめく目玉に向かっていつもの様になにか話かけている。
「おかしな光景ね」
あたしはため息混じりで一人ごちてから風呂場に入り、洗い終わった湯船にお湯が注がれていくのをしばし眺めてから出てきて、沸くまでの間に一息つくための紅茶を作ろうと、スーパーで買ったペットボトルのお水を注いだケトルをコンロにかける。
「お母さん。お茶にするの?甘いやつ?レモンいれる?」
「甘いよ。でもレモンは淹れない」
「えー!レモンは健康にいいんだよ?美味しいんだよ?」
「かわりに牛乳淹れるから大丈夫」
「むー‥‥」
いつもやたらとレモンと甘さにこだわる娘はまた奥に消え、あたしは完成した紅茶にたっぷりのザラメと牛乳を注いだ大きめのカップを持って居間のテーブルに置いて座り、両手で包み温かさを感じながら一口飲む。
その間も天袋の両眼は、あたしがひとり和む様子を黙ってのぞいている。
「そんなに毎日見つめないで、もうあたしは大丈夫だから」
あたしは静かに二つ目だけの男の子に言った。
でもその両眼は消えなかった。
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