のちに‥‥温め会う。

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のちに‥‥温め会う。

「お母さん♪今日のごはんはカレーがいい!」  5階建て、築何年かも定かではなくセキュリティもない古びたマンションの3階角部屋。  その部屋の居間の天井あたりから可愛らしい女の子の声が届き、あたしの鼓膜を優しく刺激する。  彼女お手製の先を輪っかにしたロープにぶら下がり、身を預けて楽しそうに揺られながらプラプラ遊んでいた5歳の娘が、狭い対面式の台所で調理をはじめようとしたあたしを捕まえにやって来てはしゃいでいる。 「カレーは甘口がいいの?」 「いちご味がいいの!」 「ないよ。そんなの」 「じゃあ、メロンは?」 「いつもの林檎(りんご)ジュースが入ってるので我慢してね」 「むー‥‥」  唇を尖らせてプイッとあの子は奥に消えた。  それを見届けてあたしは、自らそう宣言した通りに林檎の甘さが隠し味のカレーの支度にとりかかる。そうだ。妙に甘いのが好きな娘のためにハチミツ味付け足そう。  そうしてハチミツの瓶を出そうと戸棚をゴソゴソしていると娘がまた現れて、あたしにこう告げた。 「あの子、またいるよ」 「‥‥え?」  娘に手を引かれ(いざな)われるまま、あたしは居間に足を運ばされる。  そうしてまた知らぬ間に、(ふすま)が大きく開けられた押入れの天袋に目を移す。  そこにその子はいた。 「ね、いるよね?」 「‥‥うん」  いつものように吸い込まれそうな溶け込まれそうな漆黒の闇の中に、プカリプカリと子供のふたつの眼だけが浮かんでヒラヒラ泳いでいる。  もう慣れたからいいけど、突然あたしのもとに現れた娘に手を引かれて暗闇の中の目玉を見せられたときは、あまりの事態に声も出せず、彼女の手を握ったまま体の力が一気に抜けてしまって、体勢を崩してフローリングに(うずくま)ってしまったのを、今でもハッキリ覚えている。  あれからも毎日娘があたしを呼びに来て、この異様な光景を目撃させられ続けている。  
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