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あんな作戦でも上手くいったことで、調子に乗ってしまったのかもしれない。
「えっと、なんでこんなに近いんでしょう……」
ソファーは三人掛けで十分ゆったりしているというのに、ぴったり隣に張り付いて座り、俺の膝の上で双方の手を重ね合わせているのだから、そう言われても仕方がない。
「言ったじゃないか、週末は夫婦らしく過ごすと。こんなことくらいで恥ずかしがっていたら、会社の皆にすぐバレるぞ? そうなって困るのは、ひなたなんだろう?」
「そうです! それは困ります。三ヶ月くらいは続かないと……」
まん丸の目を見開くから、余計に大きくなって吸い込まれそうだ。
「だったらもう少し慣れるんだな。その方がお互いラクだろうし。そうだろう?」
「はっ、はいぃ」
今度はちょっぴり俯き加減になった。
あの夜、結婚してくれなんて大胆なことを迫ってきたくせに、案外奥手なんだろうか。
ちょっとからかうつもりもありつつ重ねた手は温かく、弄べばフニフニと柔らかい。だから離すタイミングが掴めなくなってしまった。
まさか昨夜のキスが初めて、なんてことはないだろうが、ふと確かめたくなった。
「ひなた、念の為聞いておきたいんだが、恋人がいたことはあるんだよな?」
「う、なんですか急に」
見上げてくる眉間に皺ができた。聞かれたくはないことなのか。
「ただの確認だ。昨日のキスが初めてだったなんて言われたら、相手が俺じゃ悪かったと思って」
「そ、それは別に、大丈夫というか……」
頬が赤くなった。それなりの経験はあるらしい。俺が聞いた理由を悟った故の、紅潮なんだろう。
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