▼純朴なキスを

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 あんな作戦でも上手くいったことで、調子に乗ってしまったのかもしれない。 「えっと、なんでこんなに近いんでしょう……」  ソファーは三人掛けで十分ゆったりしているというのに、ぴったり隣に張り付いて座り、俺の膝の上で双方の手を重ね合わせているのだから、そう言われても仕方がない。 「言ったじゃないか、週末は夫婦らしく過ごすと。こんなことくらいで恥ずかしがっていたら、会社の皆にすぐバレるぞ? そうなって困るのは、ひなたなんだろう?」 「そうです! それは困ります。三ヶ月くらいは続かないと……」  まん丸の目を見開くから、余計に大きくなって吸い込まれそうだ。 「だったらもう少し慣れるんだな。その方がお互いラクだろうし。そうだろう?」 「はっ、はいぃ」  今度はちょっぴり俯き加減になった。  あの夜、結婚してくれなんて大胆なことを迫ってきたくせに、案外奥手なんだろうか。  ちょっとからかうつもりもありつつ重ねた手は温かく、弄べばフニフニと柔らかい。だから離すタイミングが掴めなくなってしまった。  まさか昨夜のキスが初めて、なんてことはないだろうが、ふと確かめたくなった。 「ひなた、念の為聞いておきたいんだが、恋人がいたことはあるんだよな?」 「う、なんですか急に」  見上げてくる眉間に皺ができた。聞かれたくはないことなのか。 「ただの確認だ。昨日のキスが初めてだったなんて言われたら、相手が俺じゃ悪かったと思って」 「そ、それは別に、大丈夫というか……」  頬が赤くなった。それなりの経験はあるらしい。俺が聞いた理由を悟った故の、紅潮なんだろう。
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