▼純朴なキスを

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 極たまに、こうやって女の表情を見せる時がある。会社でそれを見なかったのは当然のことなんだろうが。  そう考えて、ふと、給湯室前を通りがかった時のことを思い出した。  吉永とは、どの程度親しくしているんだろうか。  「ひなたちゃん」吉永がそう呼んでいたのを思い出したら、なんだか急に腹の辺りがムカムカしてきた。  多分俺は、吉永のような男が気に入らないんだろう。自分とは真逆なのがその理由かもしれない。チャラチャラしていると言ってしまえばそれまでだが、纏う空気も明るくて、とにかく顔と愛想はいい。 「ひなたと吉永は、同期だったよな?」 「え? あ、はい、そうです……なんで急に吉永君?」 「そう言えば昨日は来ていなかったと思って」  適当な理由だ。吉永と話しているのを立ち聞きして、それを思い出したら胃がムカムカしたから、なんて言えないだろう。  吉永を嫌いだなんて、上司の俺が言うわけにもいかないし。 「ああ、そうでしたっけ? 金曜だから他に飲み会とかあったのかもしれませんね。吉永君、そういうの忙しそうです」  吉永がそういう男だと気づいていたのは良かった。あんなのに引っ掛かって本気になっても、きっと痛い目を見るだけだ。それに、こんな素直なひなたとは釣り合わない。 「そうか……」  なぜだか妙に安心した。可愛い部下を傷つけられたくない、上司としての感情だ。
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