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「英子さんとはどうだ?」
「英子さん? 大好きです、英子さん。優しいし、頼りになるし」
「何か言われなかったか? なんで俺なんかと結婚したんだ、とか」
苦笑しながらも、半分は本気だった。こんな面白みのない男だ。どこがいいんだと詰め寄られてはいないか、なんて。
「う〜ん……別に。あ! でも……」
「なんだよ、気になる言い方だな。なんでも教えてくれ、夫婦なんだから」
「もう、そんなに何度も夫婦夫婦って……」
「ああ、悪いね、奥さん」
膝の上で重ね合わせていた細い指を、親指で擽った。
ちょっと揶揄うように言えばすぐに反応する。だから面白くて、また揶揄いたくなってしまう。
無自覚ながら人肌でも恋しいのだろうか。だが、あまりやり過ぎてもいけない。三ヶ月間は無難に過ごしたい。
「最近の子は指輪しないのか、って。私も言われるまで忘れてましたけどね。でも、どうせ離婚するんだしそんなもの買えませんから、適当にごまかします」
指輪。
結婚指輪か。それは盲点だった。だが普通ならあって当たり前の物じゃないか。それを買わないで結婚しただなんて言えないだろう。
しくじった。
「買おう」
「はい?」
「指輪だ。買おう」
「ええっ!?」
「そんなに驚くか? 結婚と言えば結婚指輪じゃないか。うっかりしてたよ、さすが英子さんだ。明日にでも見に行くか」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った!」
膝の上にあった手が解かれてしまった。
ひなたが両手をパーにして、俺の方へ向けるからだ。
それをなんとなく残念に思ったのは、随分、人肌と触れ合わずに暮らしているせいだろう。
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