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「なんだ、明日は都合が悪いのか?」
「違—う! 指輪なんて買えません! 離婚するのにっ」
ひなたの言っていることは正しい。尤もだ。
だが、たとえ三ヶ月でもその間夫婦であることは間違いない。だったらその証拠が欲しいだろう。
「そりゃあ、本気で結婚する人たちのような高価な物は買えないさ。でも手頃なのがあるんじゃないか? きっと」
「でもでもっ、焼き鳥何本食べられるくらいの値段です?!」
「……くっ、っあっはっはっ! お前、なんで焼き鳥と比べてるんだ。食いしん坊だなぁ」
色気より食い気で間違いないらしい。
目を見開いて興奮しているのは、焼き鳥に対してだ。
「例えばです! 例えばの話です! もったいないじゃないですか、焼き鳥」
指輪を買うのにお金を使うより、焼き鳥を食べるのに使ったほうがいいと言いたいのだろう。実にひなたらしい気がする。
「わかったわかった。今夜は焼き鳥を食べに行こう。それで、明日は指輪を見に行こう。そのくらいの金、なんとかなるから」
「ええ〜、でも……」
「夫の言う事はちゃんと聞くもんだぞ?」
「ん〜」
ぐらついている。
指輪を買ってやると言うのに流されないのは、やはり変わった女なのかもしれない。
だが、もう一押しだ。
「ねぎま、砂肝、軟骨、手羽先もいいな。もちろんビールはジョッキで」
「あーっ! ……はい」
食いしん坊め。
今夜の焼き鳥につられたひなたの返事に、口元が緩む。
「でも、絶対めちゃくちゃ安いのにして下さいねっ、指輪」
「わかったわかった」
実に変なお願いだ。
でもそれが、楽しい。
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