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まさか
久しぶりに食べた焼き鳥は、やっぱりめちゃくちゃ美味しかった。
ビールは、おつまみをしっかり食べてからだと念を押されなかなか飲ませてはもらえなかったが、そのおかげで、潰れるほどの酔い方はせずに済んだ。
心地よく酔って、ご機嫌で恭介さんのマンションに戻って、シャワーとか着替えとか、ちゃんと済ませてから気分良く眠りについた。
だけど、翌日見に行った結婚指輪にお手頃価格なものなんて一つもなくて、それでも買おうとする恭介さんを止めるのは結構大変だった。
たった三ヶ月の結婚生活のために何十万円も払うなんてありえないのに、まるで本当の新婚夫婦にでもなったかのように嬉しそうな顔で勧めてくるのだから。
きっと、恭介さんの懐には私のそれよりずっと余裕があるからなんだろう。でも、絶対に無駄遣いになっちゃうし。
だから恭介さんの腕に絡みついて、ぐいぐい引っ張ってマンションに帰り、すぐさま検索した。『結婚指輪、格安』と。
あるじゃない。ちゃんと、そこそこのが。
二人分で一万円ほど。それでももったいないくらいだけれど、一人五千円と考えたら私にも払えない額じゃない。三ヶ月後、離婚するときにお礼とその金額をお返しすればいいかな、と考えた。
「こんなに安いのでいいのか?」と何度も確認されて「どうしてもこれがいいんです!」と押し切って納得してもらった。
安いからってとんでもなく酷いデザインでもなかったし、それなりに可愛い。これはこれで気に入ったから、離婚後も使ってもいいかもと思えるくらいだ。
ただ、嵌めるべき場所がなくなってしまうから結局どうしようもないのだが。
多分数日で、恭介さん宛てに届くだろう。
お母さんが知ったらこう言われそうだ。「ほんと、便利で簡単な時代だわ」って。
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