まさか

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 チラリ、再び視線を恭介さんのデスクに向けたが既に川村君の姿はなく、恭介さんもいつの間にか離席したようだった。  ちょっと、ぼんやりしていたかもしれない。ちゃんと仕事しなきゃ。  そう思って背筋を伸ばし、画面を注視した。 「ひなたちゃんっ」  真面目にやろうと思ったばかりなのにこの呼び方。吉永君だ。  顔なんか見なくても、こうやって名前で呼んでくるのは吉永君だけだからすぐわかる。  くるりと椅子を回転させて、顔を上げた。  吉永君も結構背が高くて、見上げるのが大変だ。恭介さんの方が、もっと大きいけど。 「はい、どうかした?」 「うん、ちょっとどうかした。新婚ボケかなあ?」  タレ目の目尻を目一杯下げて微笑んでいる。  でもそれ、笑ってて大丈夫な事?! 「え、なに? 私間違えてた?」  サッと血の気が引く。どうしよう、何やった?! 「ここさ」  吉永君がしゃがみ込んで見せてくる書類を、椅子に掛けたまま少し上から覗き込む。トントン、と長い指先が指した場所、その数量が有り得ない数になっていた。 「うわっ、ごめん! どうしよう、もう発注かけちゃった?」 「いや、まだ」 「よかったあ……ありがとう! 気づいてくれて」  吉永君、チャラいと思ってたけど、仕事はちゃんとしてるんだ。それに比べて私、何やってんだ。しかもこんな雑なミス。反省せねば。 「さすがに気づくだろこんなの。桁おかしいもん。で、俺直しとくからさ、今度飲み行こ」  え、どうしてそうなる?
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