まさか

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 感謝の気持ちで吉永君を見ていたのに、結局呆れた。いつも通り、噂通りのチャラい笑みを浮かべているんだから。 「えー、それは……」  それとこれとは話が別でしょ。そう思うけれど、たった今助けてもらったのを一瞬で忘れたわけじゃない。だから強く言い返せない。  しかもここ、事務所。 「ちょっとさ、相談もあるんだ」 「相談って」  しゃがんだ体勢だからか、こんな場所で業務に関係のないことまでしれっと言ってくる。抜かりなく、ひそひそ声を低めて。 「大事な相談。今週の金曜、空けといて。じゃ」 「え、ちょっとっ」  答えも訊かずくるりと背を向け、大股で遠ざかって行く背中はどこか陽気。  私が伸ばした手は、何も掴めないまま自分の膝に降りてきた。  了承もしていないのに予定を押さえられては困る。それでも、事務所にいるのとさっきのミスと、相談があるという人情に訴えるようなことを言われてしまったせいで、はっきり断れなかった。  金曜日って、恭介さんのところへ行く日なのに。  自分のしたミスが、結局自分に返ってきてしまった。でも、大事にならなかっただけマシ、と思うべきかもしれない。 「はぁ」  諦めてデスクに向き直る。  とにかく、目の前の仕事をミスなくやらなくては申し訳ない。
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