まさか

8/29
前へ
/246ページ
次へ
「焼き鳥うんまっ」 「いい食いっぷり。相変わらずだねえ」 「よく知ってるみたいな言い方やめてよ、キモイ」 「キモい?! 俺そんなん言われたことないのに」  いつもの居酒屋じゃないテーブル席。その向かいに座った吉永君が、組み合わせた両手の上に顎を乗せ、ちょこっと首を傾げてこっちを見ている。  絵にはなるけれど、甘い造りの顔でそんな仕草、私にはちょっと甘すぎる。  そう考えながら手にした串にかぶり付いた。 「うん、この砂肝もなかなか。吉永君も食べなよ」 「サンキュー。でもかわいい顔してガツガツ食べるよな、ひなたちゃんて」 「どうせガサツな女ですよ、悪かったね。でも美味しいから仕方ない」 「ガサツなんて言ってないって。そういうズレたとこもかわいいけどね」 「はいどーも」  吉永君の紡ぐかわいいは、挨拶。  居酒屋で言うなら「いらっしゃいませえ〜」と一緒。    だからその挨拶に対し、丁寧に腰を折る必要もないわけだ。  はあ。タレ目でガン見してくるから、あっさりしたものが食べたくなってきた。 「漬物食べたいな。頼んでいい?」 「どうぞ?」 「そう言えばさ、相談あるとか言ってたの、あれ嘘?」 「おいおい、嘘って決めつけ良くないっしょ」 「やっぱ嘘なんだ。すいませーん!」  片手を勢いよく上げると、自分より確実に若い男の子が走り寄って来た。大学生とかかな。なんだか犬みたい。かわいいって、こういう子のことを言うんだよ。  漬物と砂肝、手羽先も頼んじゃえ。  追加注文して、ジョッキのビールを煽った。 「っああ〜」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5222人が本棚に入れています
本棚に追加