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「怪我は?」
険しい顔で問われ、慌てて首を横に振る。
すると、私を背に隠すようにして、恭介さんは背後を振り向いた。
「吉永、一体どういうつもりだ。ひなたは俺のものだと、知らないわけないよな?」
恭介さんの声には、聞いたこともないような怒気が滲んでいる。
契約しているから、夫としての役割を果たそうとしてくれているんだ。
助けてもらえたことで安心したはずなのに、そう思ったら、なぜだか胸がキュッと締め付けられるようだった。
自分で思うよりずっと、さっきまでの吉永君を怖いと感じていたのかもしれない。
「えっと、俺たち同期なんで、そ、それで飲んでて、ね? そうだよね? それだけです!」
恭介さんの背後にいる私に助けを求めるなんて。さっきまで、とんでもないこと言ってたくせにっ。
体の震えは恭介さんの背中に隠れているうちに収まってきて、代わりに怒りが湧いてきた。
やっぱ腹たつ。だから言い返さずにいられない。
「同期って、嫌がってるのを無理やりどこかに連れて行こうとしていい関係でしたっけ?」
「なに?」
恭介さんが発したたった一言の威圧感が半端ない。
なぜだかわからないけれど、恭介さんが来てくれた。そのおかげで心強くなった私は、怒りの感情を隠さず吉永君にぶつけていた。
「物陰に連れ込んでエロい口調でなんか囁いてきたり」
「ひっ、ひなたちゃんっ、そんなこと言わないでさっ、謝るから」
今更謝るなら、さっきやめて欲しかったよ。
「吉永……」
「はっ、はいっ!」
恭介さんの声が、低い。普段より、ずっと。
後ろにいるから見えないけれど、漫画で描いたら多分、ゴオオーッ! ていう怒りのオーラがメラメラしてる感じ。
ここまで真剣に演技してもらったら、嬉しいけど逆に悪いような。
だって、吉永君にバレないための演技なんだもんね。
そう思ったらなんだか複雑で、それでも二人のやり取りを見守ることしかできなくて。
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