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「俺の大事な人に、随分勝手をしてくれたようだな」
心臓が鳴った。
大事な人だなんて、そんなこと言われたら、いくら嘘だと知っていても勘違いしそうになる。
そこまで考えて言ったわけじゃないんだろうけど。
「いっ、いえ! そんなっ!」
「お前の趣味にまで口出しするつもりはないが、そういうのは、少なくとも合意の上でやったらどうだ」
「おっしゃる通りです!」
「だったらお前のしたことは何なんだ」
恭介さんの声から抑揚が消えた。
「ひっ、す、すみません!」
チラ、と恭介さんの背中の後ろから吉永君を覗いてみれば、顔面蒼白。いつものタレ目も、心なしかキュッと上がって見えるような。
「……それだけか?」
「もっ、もう、もう二度としません! ひなたちゃんを誘いません!」
「それから?」
「それっ、それから? え、えっと、触りません! 仕事のこと以外話しません! 申し訳ありませんでした!!」
深々と頭を下げた吉永君は、監督に怒られて全力で反省を見せる野球部員みたいだった。
それに対して、立ち去ることを要求する恭介さんの声は冷たい。
「はひっ!」
やっぱり野球部員みたいな返事をしてもう一度深く腰を折ると、吉永君は走り出す勢いで去って行った。
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