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「え? なんですか?」
マンションに帰り着き、靴を脱いだかと思えばすぐに手を引かれて戸惑った。
「こっちだ」
誘導されたのはランドリールーム。洗濯機と洗面台があり、脱衣所も兼ねている。
まさかシャワーでも浴びせ掛けられるのかと身構えると、立たされたのは洗面台の前だった。
鏡の前に立つ私の背後に、恭介さんが立つ。
「手を洗おう」
後ろから両袖を捲り上げられて、頷いた。
路地に座り込んだ時に手をついたし、汚れているという事か。恭介さんは綺麗好きだし、私なんかより余計に気になるのだろうなと思い、ハンドソープで手を洗い流した。
「ひなた、もっとしっかり洗ってくれ」
「え? 洗いましたけど……」
「もっと丁寧に。吉永に触られただろう?」
鏡の中の恭介さんはそんなことを言って、洗い流した手にもう一度ハンドソープを乗せてくる。そうして私の後ろに立ったままで、同じように手を洗い出した。
今、なんて言った?
ドクンと、また心臓が鳴った。
いやいや、まさかそんなこと。
もしかして、吉永君のことが嫌いなのかも。
鏡に映る恭介さんを見つめても、俯いているせいで表情はわからない。
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