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あれ? 結局訊くんだ。
あの場で何も訊かれなかったから、私を助けてくれたことも、吉永君の反省を促すような言葉も、恭介さんにとっては契約中だからすべきことに含まれているのだと思っていた。
こうやって問い質すのも、契約中だから?
笑っていない恭介さんの顔は、元々の鋭い目つきのせいかちょっとだけ怖い。それなのに私は、吉永君といた理由を訊ねられた事を不快に思わなかった。寧ろ嬉しいとさえ感じているような。
なんだか変だ。
「さっきは訊かなかったのに」
「あんなところじゃ落ち着いて話もできないだろう」
小声の呟きにも、真面目にそう返してくる。
けれど納得。あんなところで何か致そうとする吉永君とは真逆な大人だ。
「飲みに行こうって、誘われただけです」
「誘われたからって誰にでもついて行くのか?」
ほんの少しだけ責めるような口調。なのに、萎縮するどころかニヤついてしまいそうになるのだから、やっぱりちょっとおかしいのかも。
恭介さんにとってはただの事実確認かもしれないが、なんだかヤキモチを妬かれてるみたいで。
契約内容にないこんなオプションまで付けてもらって、本物の夫婦にでもなったようで得した気分。
「そんな事ないですけど。実は今週ミスしちゃって。あっ、でも大丈夫ですから。吉永君が見つけてくれて」
「それで断れなかったのか」
「はい。でも断るつもりで、っていうか、吉永君のことなんてもう忘れてたんです。それで、会社を出たところで考え事をしてたら吉永君に見つかっちゃって。同期だし、どうせ今日は一人だし、夕飯代わりにまあいっかって思って。すみません」
「……そうか」
恭介さんは、何かに納得するように頷いて、それ以上訊こうとはしなかった。
やっぱり事実確認だから、こんなものか。
だから今度は、私の頭に浮かんだ疑問をぶつけてみる事にした。
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