まさか

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 うっとり蕩けていれば、前触れもなく恭介さんの舌が逃げて行った。私を舐め溶かすつもりではなかったのか、何度か唇を啄んでキスが終わる。  いつの間にかソファーの背凭れにくったりと体を預けていた私は、背中を起こそうと力を入れても無駄だったことで、腰が抜けてしまったのを悟った。  視界も思考もぼんやりして、ふわふわして、どこを見ているのかもわからない。けれど恭介さんの方を見つめたまま、ぽうっとしていたのは確かだった。 「かわいい俺の奥さん、シャワーを浴びておいで」  目を細めてそんなセリフを囁かれ、我に返る。  もしかして、今日こそ一線超えちゃうの?!  今度は一気に高まった緊張感から動けずにいる私を、恭介さんが急かす。 「どうした。早く行っておいで?」  ソファーの背もたれに片腕を乗せて私を見つめる恭介さんが、すごく甘い笑みを湛えているような気がして、それでフイと視線を逸らせた。  恥ずかしすぎる! 恭介さん、超余裕だし! 「い、行ってきますっ」  すっくと立ち上がって、前方に顔を向けたまま告げた。 「はい、どうぞ。ちゃんと温まってくるんだぞ」 「はいっ」  足がもつれそうになってローテーブルにぶつかった。気にせずお泊まりバッグを拾い上げれば、クスクス笑いが背後から聞こえてくる。  なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。別に、初めてってわけでもないのに。  いやいや、初めてってなに?! そういうの、契約に入ってたっけ? 「イタッ!」  考えすぎて、開けようとしたドアにまでぶつかって、またもや背後で吹き出すのが聞こえてきて、ドッと疲れた心地がした。  とにかく洗い流そう。全部全部、全部だ!
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