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新幹線を降りて一度駅を出た。マンションへ向かうのに、私鉄に乗り換える必要があるためだ。
急いで飛び乗ってきただけのことはあって、随分早く帰れそうだ。この時間ならひなたもまだ起きているだろう。
それなら、あの焼き鳥を買って帰るのはどうだろう。新幹線でも結局何も食べられなかったし、二人で晩酌なんていうのもたまにはいいんじゃないか。
ふと立ち止まって、私鉄の駅とは逆方向へ足を向けた。
ひなたの焼き鳥好きが伝染したようだ、なんて思えばまた口元が緩んで、咳払いなんかしながら行く。
「離れてっ!」
どこからか、女性の嫌がるような声が聞こえてくる。
痴話喧嘩か? それなら放っておくべきだろう。犬も食わないというやつだ。
しかしこんな場所で揉め事を起こすとは、よっぽど注目を浴びたい人種なんだろうか。そういう人種とはどんな人間だろう。
なんて他人事に思いながらも、女性の方が酷く嫌がっている様子はやはり気になった。
もぞもぞ体を揺らしているが、相手の男に抱きかかえられるように建物と建物の隙間に誘導されて行く。
痴話喧嘩だとしても、あまりよろしくはない雰囲気だ。
「やだって!」
やはり助けるべきか。
「あっ!」
女性が発した短い声と同時に、何かが地面に落っこちた。
その、落っこちた物にハッとする。
見覚えがある。ひなたが金曜に持ってくるバッグ。それと同じだ。
まさか!?
「いい加減にしてっ!」
どちらにせよ助けた方がよさそうだ。たとえひなたでないとしても、あんな風に嫌がる女性に対して無体なこと、見過ごしていいわけがない。
駆け寄って、路地に連れ込もうとする男の腕を背後から捻り上げた。
「何してる?」
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