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「イッッッ!」
男は呻き声を発して、女性から手を離した。
がそこで、腕を掴む俺を振り返った男の顔に驚かされることになった。
「吉永? 何してる、どういうつもりだっ」
「かっ、課長! いやこれは、そのお、ひなたちゃんが飲みすぎてですねえ、それでっ」
冷静さなんて吹っ飛んだ俺は吉永の腕を放り出し、路地に蹲るひなたを引っ張り起こしてぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめた。
苦しいほどに俺の存在を感じてくれて構わない。好きだと自覚した途端誰かに取られるなんてごめんだ。
夫という立場のおかげで、こうして大っぴらに抱き寄せても許されるのはせめてもの救いだった。
こんなことになるなら、もっと吉永を警戒すべきだった。
給湯室での会話を聞いていただけに余計悔やまれる。
腕の中のひなたは小さく震えていて、どれだけ怖かったのか、そんなこと訊かなくとも伝わってきた。
だからそのまま、ずっと抱きしめていたかったのだが、許せない奴が一人いるのを忘れてやるわけにはいかないと顔をあげた。
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