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上がった息を落ち着けて顔を上げれば、イケメンかもと気付いたばかりの顔が般若のように顰められていて、慌てて腕を離した。
さすがにやり過ぎてしまった。整っている分、怒ると怖さが格段にアップするようだ。こんな顔、職場では見たこともないが。
「す、すみません! ごめんなさい! おお、おかしな事を、申し訳ありませんでした! 失礼しますっ!」
一気に酔いが覚めていく。
やっぱり、こんな横暴なこと受け入れられるはずがない。飲んで気分が大きくなって、それで思考が自由になり過ぎた。
けれどくるりと背を向け踏み出せたのは、一歩。仕返しなのか、私の腕は浅井課長にむんずと掴まれていて。
「待て」
低い声で言われて、犬でもないのにピタリと止まったまま動けなくなる。
ひいぃっ! 怒らせちゃった!
こんな往来でどんな説教をされるのか、いや、自分のした事を顧みれば怒られても仕方がないわけで。ほんと、なにやってるんだろう。
振り返るのも怖かったけれど、悪いのは自分の方だ。潔く謝ればまだマシ、かな?
そうっと振り返り恐る恐る見上げた顔は、やっぱりまだ般若。顔がキリッと整っている分、威圧感も半端ない。
「あのっ、本当にすみませんでした。失礼な事を……」
どうしようどうしよう!
会社での浅井課長は、真面目でクールだけど部下思いな印象。こんな怖い顔をしたのは見たこともないし、鬼だとかサイコだとか、そんな噂もなかったはず。
だから失礼の代償に無理難題を押し付けられるような事はないと願いたいが、それこそ私の身勝手だともここまで来ればわかるわけで。
ずい、と身を乗り出されて、浅井課長の整った顔が、ありえない近さまで迫った。
脅迫される?!
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