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俺の片思い。
そう考えれば、自嘲の苦笑いが零れた。
まさか部下に恋愛感情を抱くなんて。
女々しくとも嫌われたくはない。
俺の顔を見てホッとしたようなあの笑みが、窮地を脱したという理由だけで溢れたものでなければいいのにと思う。
不意打ちのキスだって、同じベッドで眠ることだって拒まなかったのには、少なくとも嫌悪感とは別方向の感情があるからだと思いたい。
身勝手だろうか。
久しぶりの恋で勝手がわからない。それなのにもう、夫婦だという事実がある。
契約を結んだ時には、まさか自分がこんな思いを抱くことになろうとは思いもしなかった。
たった三ヶ月。どうせあっという間に過ぎて行くだけの無味な時間なら、理由はともあれ思い悩んでいる部下にくれてやってもいいだろうと、そう思っていた。
だからこそ出来た契約だとも思う。
だが、ひなたを一人の女性として大切に思っている自分の感情に気づいてしまった今、どうしたものか。
突然好きだと告げれば混乱するだろう。離婚前提の結婚なんて申し込んでくる時点で、俺から好かれようなどとは思ってもいないはずなのだ。
さっきのことがあって、なんとなく気持ちが焦る。
だが今は、何よりひなたの無事にホッとしているのだけは確かで、自分の中に生まれたもどかしさをどう持って行くかは決めかねて、帰ろうと呟いた。
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