5223人が本棚に入れています
本棚に追加
繋いだ手を離さなかったのは、どう伝えるべきか考えあぐねた思いが、せめてこの手から少しでも伝わらないだろうか、なんて馬鹿げたことを思ってしまったからだ。そんなもので伝わるはずもないのに。
それでもマンションに帰り着くまでには頭が冷えて、強引に事を進めなかった自分の選択に安堵した。
心ごと、手に入れたい。
ただ、吉永に触れられたままのひなたと話していて冷静でいられる自信はなく、洗面台の前に連れて行った。
背後から覆いかぶさるようにして手を洗い、ひなたの手も泡で包み込んだ。俺からしてみれば小さな手だ。その手を吉永に掴まれていたと思うだけで、収まったはずの怒りが再び沸々と沸き上がるような感覚に、自分でも戸惑った。
そうしながら、ひなたが少しも嫌がっていないことに気がついた。
こんな風に背後から抱きしめるような体勢は、さっき吉永にされて抵抗していたのと同じ格好なのに、鏡越しに見遣った今のひなたの頬には赤みが差している。抵抗なんてものもない。
俺に嫌悪感があれば、こんな顔はしないだろう。
そう思えば愛しさが増して、もっと触れたい欲求が強まった。
だがまず、話をしなくては。
最初のコメントを投稿しよう!