▼ なぜか

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 柔らかなブラウスの上を這わせた手で、頬を包み込んだ。  しっとりした手触りと唇の艶が情欲をそそる。  嫌がる様子がないのは、初めてここでキスしたあと、夫婦なら当たり前だと言った俺の言葉を鵜呑みにしているからだろう。  いくらでも逃げる隙はあるというのに、それでも可愛い事を言って逃げようとしないのだから、こっちも多少の期待を抱いてしまうではないか。  その愛らしい唇に口づけた。  だが今日は、触れるだけで終わりになんて出来ない。そんな子供みたいなキスじゃ、俺の思いはいつまで経っても伝わらない気がして。  呼びかけて開いた唇の隙間に舌を差し込んでも、やはり嫌がらない。  ならば、と丁寧に、舐め溶かすようなつもりでひなたの口腔を味わった。  ここまでしても全く抵抗しないのは、流されているか、それとも俺のことを少しは意識してくれるからか。  ワンナイトOKというような軽い女ではないはず。そういう女なら、とっくに俺を誘うような態度をとったはずだし。  だったらもっと、俺を意識してもらわなければ。  ここでこのまま抱いてしまえば一時的な欲求は満たされるが、俺が欲しいのはそんな容易いものじゃない。    絡ませていた舌に無理やり言うことを聞かせ、キスを止めた。  まだぽうッと余韻に浸るひなたの表情にそそられたが、ぐっと我慢だ。  今夜は、これ以上しない。  シャワーを浴びてくるよう促せば、動揺したのかそこら中にぶつかっている。  どうやら意識はされたらしい。わかり易い反応が可愛らしくて、衝動を抑えるのが大変だ。  そういうつもりであったのかどうか、ひなたがシャワーを浴びる間、随分時間があった。おかげでその間にたっぷり考え事ができた。
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