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定時に会社を出ることなど殆どないが、週末だけは、先に帰り着いた彼女が「お帰りなさい」と言ってくれる。
そう言われる安堵感を覚えてしまった心が、早く早くと欲しがって急かすのだ。
そんな理由で帰ってみれば、家で待っているはずのひなたが酷い目に遭っているではないか。しかもそこには吉永。
どういうことだ。なんで。
疑問に思ったのは一瞬で、すぐにハッとした。給湯室でひなたに絡んでいた吉永。あの時もっと警戒しておくべきだったと。
だが会話を盗み聞きした後ろめたさと、吉永を好ましく思っていない自身の私情を挟むようだったのと、まさか自分が彼女に好意を抱いているなどとは思いもしなかったことから深追いはしなかった。
それがあんな事態になろうとは。
結果的にはひなたを吉永に穢されずに済んだのだから、良かったと喜ぶべきかも知れないが。
あれからまだ数日だが、吉永は俺の見ている限り、ひなたにちょっかいを出したりはしていないようだ。だがもしも俺のいない所でそんなことをした場合は、遠慮なく査定に影響を与えてやるつもりだ。
もちろん牽制はさせてもらっている。
すれ違う時などに横目でちらりと見てやるだけだが、それでもあのタレ目が若干つり上がるように見えるのだから、それなりの効果はあるらしい。
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