▼ なぜか

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 出張費精算のための書類を英子さんに手渡してデスクに戻ると、パソコン越しに見遣ったひなたは今日も真面目にやっていた。画面を見つめながら時折何か呟いている。  それは多分取り立てることもないような独り言なのだろうが、そんな姿も愛らしくて思わず口元が緩んでしまう。  それで慌てて口元を覆った。  見つめてニヤけるほど重症だったとは。  ここは職場で仕事中だというのに、自覚がないだけで、いつの間にかひなたを見つめてニヤついていたりしていたんだろうか。課長職ともあろうものが情けない。仕事中はもう少し、気を引き締めないと。  そう思うのに、やはり視界に入れたらダメだ。可愛くてならない。  職場恋愛をしている連中というのは、なかなかに大変な思いをしているのだなと、一つ発見ができた。  だがそんな思いを抱いてしまうのも、左手に嵌められた指輪のせいだろう。  ひなたとペアの安物の指輪だが、そんなものでも彼女が選んだのだと思えばなぜだか愛おしいのだ。  眠っているうちに、こっそり指輪を嵌めたその指は華奢だった。目を覚ましてどんな反応を見せてくれるのか期待してしまったのだが、恥じらいながら礼を言うその姿は期待以上で、満たされた思いが蘇った。  この関係が、本物になればいいと思う。  嫌がる素振りはないから、少なくとも嫌悪感のような感情はないのだと受け取れる。あとは上司だから、自分から持ちかけた契約だから断り切れないという可能性もあるが。  焦らず、たっぷり甘やかして包囲しようか。  自分がそうすることに喜びを感じるタイプらしいという発見には、自身でも驚いたのだが。
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