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久しぶりの恋だからだろうか。気を引き締めようと誓ったばかりなのに、今日はダメだ。
早朝出勤を何年も続けているのだから、ほんの少し見つめるくらいの時間は、席を立たずにする休憩と見なしてはくれないものだろうか、なんて。
馬鹿な事を考えてしまったと内省し画面に目を戻せば、昼休憩のチャイムが鳴ってしまった。
ハッとしたように顔を上げて壁の時計を見たひなたは、慌ただしくマウスを動かし、それから両腕をぐっと天井に向けて伸ばしている。
「ひなた」
「えっ、はっ、はいっ」
急に名前を呼んだからか狼狽えて、キョロキョロ辺りを見回してすぐこちらへやって来た。
「なんでしょう?」
「なんだと思う?」
ニヤリ微笑むと、キョトンと見つめ返された。
そんな表情だって可愛らしい。
「はい? わかりませんけど、何かやらかしました? 私」
「いや。昼飯、一緒に食べようかと思ったんだが、どうだ?」
「……え……はい。いいですけど」
急に染まった頬に触れたくなる。
だがデスクのこちらと向こうでは距離があって届かない。それにまだ、事務所の中だ。いくら昼休憩の時間でもそれはマズイ。それこそ吉永じゃあるまいし。
「でも私、持って来てますよ?」
「じゃあ俺は、下で買って来る。屋上にでも行くか?」
「はい! いい天気ですもんねっ」
ニコニコ笑って、天気がいいのがそんなに嬉しいのか。
全く、可愛いったらない。
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