ときめき

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ときめき

「で? すっごいラブラブでしたが、何か進展が?」  会社を出て、最寄り駅の向こう側の道を少し入ったところにあるイタリアンカフェに入った。  向かいの席から美保にエアマイクを向けられて、うっと顎を引く。 「いや、そんなだったかなあ?」 「あれは相当です、バッチリ見ましたからね。総務女子騒然でしたよ?」  さながらワイドショーのレポーターという感じのノリだ。  今日の屋上ランチの様子は美保にも見られていたようで、恭介さんが去った後、駆け寄って来た美保の言い付けで急遽この場を設ける算段となった。  平日は予定もないし、美保と会うのは楽しいから全然いいのだが。 「あはは〜。でも普通じゃない? 普通」 「ふつう?! あれが普通とは、二人っきりならどんだけなの?」  二人っきりなら——。  恭介さんのマンションで、いつもの黒いソファーに並んで座っている、しかもかなりくっついた状態で手なんか握られているところを思い出してしまった。 「ちょっと! めちゃくちゃ赤くなってる!」 「なってないなってない!」 「なってるからぁ」  思い切りニヤニヤされた。  勝手な想像、やめてもらえませんか。 「でも、お昼っていつも一緒してたの?」 「ううん、今日急に言われたの。天気良かったからかなあ」 「急に!」 「う、うん」  そこ、反応するとこ? 「へえ〜。欲求を抑え切れず衝動的に、かぁ」 「ちょっと、そんなんじゃないよ。言い方おかしいし」 「だっておにぎりで餌付けだよ? しかも頭ぽん。私されたことないよそんなの」  あれ? 夫婦って、そういうの日常的にやるものなのかな、なんてどこかで思い込んでたのに。 「いやそれは」 「それは何? まさかいつもされてる?」 「いやそんなこと……ない……かな?」 「あるねそれ。ある言い方だね」 「急になんだよほんと、今週になって急に。会社でも名前で呼んでくるし」 「へえぇ、会社でも」 「最初は石森って呼んでたはずなのに急にひなたって呼び出したから、月曜日はほんとびっくりしたよ。もう慣れたけど」 「ふう〜ん」  手にしたピザを口に入れるのも忘れるほど熱心に聞いてくる美保のせいで、ついつい正直に言いすぎて、さっきから顔が熱いままだ。
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