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吉永君への怒りはひとしきり爆発させた美保だったが、切り替えるように食後の紅茶をゆったり飲むと、話は課長とのことに戻った。
「でもひなたったら、課長とそんなことまでしてたんだあ」
「夫婦らしくって、そう決めちゃったからだと思うよ。義務だよ義務」
「義務でそんなことするわけないじゃん。私だって、旦那とそんなにいつもくっついたりキスしたりなんかしてないんだから。課長も意識してるんじゃないかなあ、ひなたのこと」
「そ、そんなことないでしょ」
「どうして?」
「だって迷惑しかかけてないし、一つもいいとこ見せてないんだもん」
自分で言って、ちょっと悲しくなる。
けどどんなに頑張って思い起こしても、最初から今まで、情けなかったりかっこ悪かったり、そういうところしか披露できていないのが現実だ。
「じゃあこのまま契約期間が終わるまで片思いでいて、予定通り離婚してそれでおしまい? 好きになっちゃったのに」
そうだった。いつの間にか幸福感に包まれ過ぎていて、離婚することを忘れそうだった。
約束通りなら、あと二ヶ月ほどでこの結婚生活は終わる。
「ひなたがそれでいいなら構わないんだけどね」
「うん……」
「あ、そうそう! 課長のこと早くあの二人に紹介して驚かせようよ。そもそもそれが目的だったんだし」
口を噤んでしまった私を案じてか、美保が明るい調子で告げた。
「まあ、そうだけど」
今となっては、そんなことに巻き込んでしまっていいのかと悩む。ちょっぴり怖そうにも見えるがかなりいい人だ。お願いすれば断らないような気がして、余計に申し訳ないような。
「もうこの際だから甘えちゃいなよ。私、利里亜と花乃に連絡しとく。来週の金曜でどう?」
「それ、恭介さんも呼ぶの?」
「あったりまえ! 課長が来たら絶対驚くよ? あの二人」
「でも都合つくかどうか」
「どうしても無理なら仕方ないけど。その時は私が責任持って、浅井課長のすごさを語らせてもらうから」
「ふふっ、なにそれ」
「とにかく来週ね、課長にも伝えといて?」
「うん、わかった。ありがとう」
「ふふん、なんか楽しくなってきた〜」
明け透けに話せたことで自分の心の中も整理されたのか、帰る頃にはうんとスッキリしていた。やっぱり親友との会話は楽しい。
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