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「今日は、送ってもらってもいいですか?」
別に、泊まるのが嫌なわけじゃない。だけどお泊まりセットもないし、色々と準備ってものが必要ですから!
「ふっ、それは残念」
残念、と言う割に恭介さんの機嫌は悪くないような気がする。最初から私の答えなんかお見通しで、ただ揶揄っただけなんだろうか。
これ、遊ばれてるだけで絶対女としてなんか意識されてないんじゃ……。
そう思えば悔しいような、でも、思うように転がされるならそれも悪くないかも、なんて思ったり。
ああ、ダメだ。これじゃ幼稚すぎる。もっと大人の、駈け引き上手な女にならなきゃ意識なんてしてもらえないかも。そんなの、今更できる自信はないけど。
「はぁ」
「どうした。また悩み事か?」
思わず零してしまったため息を気遣われてしまい、申し訳なく思った。
「いえ、すみません。大丈夫です」
あなたのことで悩みまくりですよ、なんて言えないし。
「今更遠慮か? おかしな奴だな」
今更。
確かにそうかも。契約結婚なんか持ちかける時点で遠慮のえの字もしているとは思えないし、初めて入った恭介さんの家のソファーで寝ちゃうとか、自分の行動のどこにも遠慮なんて見当たらないっけ!
「あははっ! ほんと、今更ですね。なんか、申し訳ないけど笑っちゃいます。すみません、へへへっ」
「そうだろ? はははっ」
恭介さんも笑ってくれたから、気持ちが沈まないでいられた。本当、部下思いのいい人だ。
駅から徒歩五分のマンションへ着くのはあっという間で、エントランスに入ると「車のキーを持ってくる」と言われた。
てっきりここで待てという意味で捉えていたのだが、「いや、やっぱり部屋まで一緒に来てくれ」と言う恭介さんについてエレベーターに乗り込んだ。
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