スピード離婚契約

▼部下と結婚

　普通、言うか？
　上司に向かって、「結婚しよう」だなんて。

　しかも、好きだ嫌いだをすっ飛ばして、交際もしていない男に向かってだ。結婚に興味がないのだと告げれば逆に喜んで。

　突拍子もないというか、何を考えているのか。そんなことを俺に頼んで了承するとでも思ったのか。俺はそんなにお人好しに見えるのか。

　だが、本気で思い悩んでいるのなら、上司として放ってもおけない。話くらい聞いてやるのも仕事のうちだろう。
　そう思った自分は、お節介が過ぎるタイプの人間だっただろうか。

　週明けの今日も、溜まった書類のチェックやら会議やらで朝からフル稼働させられている。にも関わらず頭に浮かんでくる、石森とのやり取り。
　休憩に相応しい時間とも思えなかったが、なんとんなく一息入れたい気分で席を立ち、休憩スペースへと向かうことにした。