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カードキーでドアを開け、シューズボックスの上の車のキーを掴んだ恭介さんが、そこで漸くこっちを見た。
「本当に、泊まらなくていいのか?」
さっきと違って明らかにニヤっとしているから、今度こそからかわれたのだとわかる。
さっきの、何も言えなくなってしまったあの時間は、一体なんだったんだろう。
「もうっ、からかわないでっ」
「ははっ、悪いな、つい」
だけどそのおかげで、空気は和んだ。
それでもう一度二人で下まで降りて、駐車場で恭介さんの車に乗せてもらった。
で、気がついた。車の中が密室だと。
その緊張感からか、ついペラペラと口がよく動く。
「すごい、いい車ですねえ〜、私の軽とは全然違います。かっこいい〜」
言いながらシートベルトを締めたら、車は滑らかに走り出した。
ダークグレーのボディはワイルドと言うよりクールな感じで、形は最近よく見かけるものだ。車内は黒で落ち着いた雰囲気。
私にはどの車がどうとかよくわからないけれど、恭介さんには似合っている気がする。
「ははっ、軽と同じなら軽を買っただろうな」
電車通勤の恭介さんの車に乗せてもらえるなんて思ってもみなかったから、チラチラ盗み見たハンドルを握る姿に、ときめきが止まらない。
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