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「はい、だから止まったら」
「すぐ食べたい」
「そんなこと言ったって……」
「開けて、口に入れてくれ。もう死にそうだ」
いや、それは大げさでしょ?
今すぐチョコレート食べないと死ぬとか、子供の言うことだから。
恭介さんの要求にポカンとしていると、更に大げさな駄々をこねられた。
「ひなた、早く。残業と空腹で死にそうだ」
「いや、そんな簡単に死なないでくださいよ」
「ひなたはいいよなあ。友達と美味いもの食ってきたんだから。ほら、早くししてくれ」
どうしよう! 恭介さんが子供みたいに甘えてくる。いつもはあんな余裕たっぷりの大人なのに。
でも、可愛い!
「もう」
なんて呆れたフリで包装を開け、恭介さんの口に入れやすいようにと左手でチョコレートを摘んだ。
「はいっ」
差し出した手を、恭介さんが見るはずもない。
当たり前だ、運転中なのだから。
だから体を運転席側に捻って、少し高いところにある恭介さんの口元へチョコレートを運ぶ。すると恭介さんも少しだけ体を左に傾けた。それでも距離感が掴めないのか、チョコレートが見えないからか、なかなか口を開けてはくれない。
恥ずかしいけど、あれを言うしか上手く口に入れてあげる方法がない。
「恭介さん、あ〜ん」
その一言でパカっと開いた口の中へ、そっとチョコレートを入れた。
恭介さんの唇に指先を掠められ、めちゃくちゃ恥ずかしい。そして、恭介さんが可愛すぎ!
課長なのに、あ〜んって!
興奮して、ついそのままじっと見つめてしまった。
もぐもぐと咀嚼する姿まで可愛く見えてくる。こんな姿、会社では絶対絶対見られないレア物だ。
そんな風にニヤニヤ眺めているところを不意に振り向かれ、バッチリ目が合った。傾けたままの体のせいで、ちょっと距離も近い。
あ、でも運転中!
「恭介さんっ、前、前見て!」
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