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本当はまだ一緒にいたいような気もするけれど、恭介さんは疲れているのだからさっさとお礼を言って降りなきゃ。
緩やかに車を止めハザードランプを点灯させた恭介さんに、シートベルトを外してから顔を向ける。
「お疲れなのに、ありがとうございました。じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」
せめてもと微笑んで、ドアに手をかけた。
「ああ。ひなた、忘れ物だぞ」
「え?」
背中にかけられた声に、忘れ物なんかあったっけ、と振り返れば、運転席から私を見つめる双眸に捕まった。
と思うと、流れるように近づいてきた恭介さんの唇が私の唇と重なり合う。
一瞬チョコレートの香りがして、目を閉じる。けれど甘い香りはすぐに遠ざかった。
目を開けると恭介さんは微笑んでいて、「明日も仕事だったな」と私の髪を撫でた。
「はい……じゃあ、ありがとうございました」
そう言って、車から降りた。
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