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距離が近づいたせいで、さっきより恭介さんの表情がよくわかる。
私に笑われた理由がわからない。そんな顔をしながらも、恭介さんは背中をさする手を止めようとはしない。
痛いのはお腹なのに、そういう優しさをもらったら心がじわっと温まったように嬉しくなって笑顔になれた。
きっと、幸せホルモンか何かが分泌されたんだと思う。
「だって、恭介さんが生理痛で悶えてるところを、想像しちゃって」
「……ふっ、それはっ、おかしいな」
恭介さんも想像したのだろう。やっと笑ってくれて、それが嬉しい。
「ぁりがと」
「ん?」
「ありがとう、恭介さん」
笑ったはずなのに、またじわり、涙が浮かんで零れた。だけど、痛みは軽減した気がする。
「泣いてるのか笑ってるのか、どっちなんだよ全く」
そんなことを言いながら頬にかかる髪を避け、指で涙を拭ってくれる。
恭介さんという人は全部が温かいのだな、と思ったら、そんな人を好きになった自分を、やるじゃないか、と少しだけ誇らしく思えた。
「おにぎり」
「食べるのか?」
「うん」
「なら起きろ。変なところに入って噎せるから」
ベタッとテーブルにくっつけていた上半身を起こすと、もう一度口元におにぎりが差し出された。
でも、今日に限っては一個全部なんて食べられない。
「恭介さんも食べて。半分こで」
もう、ここが職場の給湯室だったとか、会社にいる今の立場は上司と部下なんだとか、そういうのは全部どこかに放ったらかしになってしまっている。
生理中の思考や行動は普段よりずっとわけがわからず、我儘だ。
そしてとにかく今は、甘えたくて仕方がない。
「泣き止んだら今度は甘えん坊か? 全く世話の焼けることだ」
悪態をつくくせに微笑んでいるから、わけがわからないのは恭介さんも一緒だ。
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