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半分に割ったおにぎりの片方を差し出され、何も言わずそれに噛り付いた。
そうして恭介さんの方を見れば、ニコッと、およそ会社では見せるはずもないような顔で笑う。
今度は急に照れくさくなって、口元に差し出されたままのおにぎりを受け取った。
「今日もタラコはなかったのか」
「はい」
あとは黙って二人、半分こにしたおにぎりを食べた。
なんでこんなに優しくしてくれるんだろう。
それを考えたけれど、答えなんか決まっていると気づいてそれ以上考えるのはやめた。
今はそれと向き合う余裕はない。
それから英子さんの淹れてくれたカモミールティーを飲んだら更に落ち着いてきて、昼の分の薬をようやく飲めた。
「恭介さん、ありがとうございました。すみません、迷惑ばかりかけて。あと、機嫌悪くて。早くご飯、食べに行ってください」
朝早くから出社しているだろう恭介さんが、おにぎり半分で足りるわけがない。まだ時間はたっぷりあるから、食堂でもコンビニでも行けるだろう。
「ひなたは? まだここにいるのか?」
「お手洗いに行って、そしたらここで寝ます、時間まで」
「わかった」
すっくと立ちあがると、恭介さんは足早に給湯室を出て行った。
あまりにさくっと出て行く後ろ姿を見送ったら、またちょっと気持ちは沈んだ。
やっぱりあと二ヶ月で離婚する妻より、お昼ご飯の方が大事か……。
でも実際、お腹が空いていたんだろう。なのにああして心配なんかしてくれたのだから、やっぱりいい人だ。
あとはお手洗いに行って、昼休みが終わるまで寝るだけだ。
なら、一人の方が気楽。
重い腰を上げて、お手洗いへ向かった。
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