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恭介さんのジャケットを羽織った私を見て、川村くんが何も言ってこないはずがなかった。
チャイムが鳴ってしまった後だったから、「遅くなってすみません」と言いつつ席に着いたのだが、向かいから見られたときにまずギョッとされて、それから「今日冷えますよね」なんて唐突に言われてニヤニヤされて、恭介さんが席を外した今、小声だが堂々と揶揄われている。
「最近かなり見せつけますね、お二方。彼女のいない俺への当てつけなんでしょうか」
「さあ」
「職場では石森さんのこと名字で呼んでくれって言ったの、課長でしたよね?」
「どうだったかな」
川村くんの手が止まっている様子はない。
なんで全く関係ないこと話しながら作業できるかな。私、無理なんだけど。
「もう名前でしか呼んでなくないですか?」
「はて」
確かにそうだ。案外よく見ているというか、聞いているというか。気にしてくれなくていいのに……。
あ。
ふと視界に入った、川村くんの後方にある開け放たれたままのドア。
そこから入って来たのは、どうやらご本人のようですよ?
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