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「昨日だって屋上で、すごかったらしいじゃないですか。噂されてましたよ廊下で」
「どんな風に?」
低い声がして、川村君が固まる。
「え……?」
パソコンから顔を上げて私を見るから、とりあえずニコリ、笑っておいた。
「川村」
「はいっ」
返事と共にピンと伸びた背中の向こうから、長身のその人は腰を折って部下の顔を覗き込んだ。
「仕事しようか」
「はいっ、すみませんっ」
「ぷっ」
二人の様子を見ていたらつい吹き出してしまった。それで恭介さんと目が合って、一瞬ビクッとなった私に向けられたのは、仄かな笑みだった。
私に向かって笑みを浮かべながら、恭介さんは川村くんの頭にポンと手を乗せた。
そうされた川村君は、なんとも微妙な顔をしている。
それを見たら余計に可笑しくなったが、堪えようと必死で口元に力を入れる。
だが恭介さんが川村君の傍を離れ進んだ方向がこちらだったことで、私も何か釘を刺されるのだとヒヤヒヤしてきた。
恭介さんが自分のデスクに戻るのに、私の方へと回り込む必要はないからだ。
まだ何も言われていないのに肩を竦め構えていると、川村君にしたのと同じように、ポンと大きな手が頭の上に乗っかった。
「う」
それを目撃した川村君が一瞬瞠目して、口の端に全力で力を入れているのがわかる。
ニヤニヤを堪えようと必死の顔だ。
「お、お手洗い行ってこようかなっ」
恥ずかしくて普通に座ってなんかいられない。
空気を変えないとどうにもダメだ、と席を立った。
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