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暫くして、階下のコンビニで昼食を調達して来た恭介さんが戻って来て、断りもなく私の隣に座った。
もうずっと前からそうするのが常だったかのような空気を纏わせて。
「大丈夫か? 無理してないか? 飯は食ったのか?」
なんとなくわかってはいたけれど、恭介さんは人が良くて面倒見がいいだけじゃなく、ちょっと過保護?
心配してくれるのは嬉しいのだけれど、事務所にいるときの、課長としての恭介さんのイメージとはあまりに違いすぎて笑ってしまう。
「ふふ。ありがとうございます。恭介さんて、プライベートでは意外と心配性っていうか。仕事の時はそんなんじゃないのに」
「え? ああ、そうか。妹にも言われたな、それ」
「妹さん……」
「言ったよな? 妹がいるのは」
「あ、はい」
「結構な負けず嫌いで、いつも案外無理してるんだ。だから心配してやったら、うるさい心配性、って怒られたことがあったな」
あの頃はまだ可愛い妹だったよ、なんて懐かしそうに語ってくれた。
謎が解けた。
恭介さんが私をこんなに心配してくれるのはきっと、妹さんのように私を見ているからだ。
それに気づいて、凹んだ。
ちょっとくらい私を気に入ってくれてるんだと、どこかで思い込んでいたのに。
でも違ったようだ。
妹は家族だ。家族への愛だって大切だけれど、今の私が求める愛情とは違う。
誰かを好きになったからって、そうそう自分の望み通りになるとは限らないのが現実だ。
胸が詰まった。
また急降下したテンションのせいで言葉も出なくなる。
「どうした? 波が来たのか?」
ほらまた。
でも、私が欲しいのは妹に向ける愛じゃない。
「今日は……」
「ん?」
「今日は、自分の家に帰ります」
「ああ、そうだな。その方がいいだろう」
自分の意見がすんなり通ることとは、こんなに切ないものだっただろうか。
隣に居続けるのも辛くなって、立ち上がった。
「お手洗いに行って、寝ます」
「ああ、わかった」
お手洗いから戻った時、恭介さんがここに居なければいいのに。
そう思ってしまった。
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