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なんて表情よ。
振り返ればそこには、瞠目し、口まで開けている旧友二人の姿が。その二人を見た私まで目を見開いてしまったではないか。
「浅井恭介です。ひなたがお世話になっています。遅れてしまい申し訳ない」
後ろからの声に振り返ると、ニコリ、恭介さんが微笑んだ。
で、多分その場に居た全員が、キュンとした。
私はちょっと嫉妬した。他の人に、そんな笑顔を見せて欲しくなかったのに。
そういう独占欲が心の内に芽生えていたことに、ちょっとばかり戸惑いつつ。
「やばい……」
「確かに……」
利里亜も花乃も、それ以上言葉が出なかった。
黙っているとちょっぴり怖そうにも見えるから、ギャップで、笑った時の威力が相当すごいのは私だって体験済みだけど。
「お二人ともご結婚されるそうで、よかったら。邪魔になってしまうかな」
なんて言いながら、手にしていた紙袋を二人に差し出している。
「え、本当に?」
「いいんですかあ?」
ちょっと、私を馬鹿にした二人にどうしてそんな、と思うも、そういうことをスマートにやってのける恭介さんに呆気なく惚れ直してしまうのだが。
まあ、こういうところは、同年代の男性にはなかなか真似出来まい。
遠慮するでもなく紙袋を受け取った二人は、中を覗いて感嘆のため息を吐いて見せる。
「やあん、かわいい〜ありがとうございまぁす」
「わあ〜良い香り、嬉しい〜」
「発想が乏しくて申し訳ないですが」
「なんですか?」と小声で訊ねれば、「花だ」と小声で返された。
小さな紙袋に収まる程度だから、金額的にも高価とは言えないだろう。でも嬉しいよね、花なんかもらったら。
向かいの美保も体を乗り出した。
「見せてっ……わ、かわいい」
「ああ、上田さんにも」
そう言ってもう一つ、色違いの紙袋を差し出した。
「え? 私、頂く理由がないんですが」
美保が思わず畏まって告げたのは、部署は違えどやはり職場の人間だからだろう。
「いや、上田さんには職場でお世話になってるから、これからもよろしく」
こういうときは割と冷静なはずの美保までポッと頬を染めたのは、微笑がセットだったからだろう。
「……ありがとうございます。あ、そんなところに立たせたまま申し訳ありません。どうぞ、こちらへ」
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