5221人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
「あっ、ありすぎて困っちゃう感じですか?!」
言い淀む恭介さんへの配慮か、しょげる私への同情か、はたまた空気が沈みそうなのを察してくれたのか、美保が取り繕うように言ってくれ私もなんとか苦笑いを零したその直後。
「はは。恥ずかしながら全くその通り。どこもかしこも可愛くて堪らないから、言いようがなくて困っていたところで」
「え……や、やだなっ、恭介さんったら、みんなの前で。あ、はははっ」
すっごい慌てた。
だって、聞こえた言葉をまた鵜呑みにするところだったから。
でもハッと我に返って、演技なんだからと、どうにか自分に言い聞かせ平静を装う。
だが心臓は、運転モードを通常から高速モードに自動で切り替えてしまうから困る。
「本当だよ。ひなたは可愛い。誰のものにもなっていなかったなんて、俺はラッキーだったよ」
そんなことを言われて思わず恭介さんの方を見てしまったのは、大失敗。
めちゃくちゃに甘い表情で見つめられていたから、目が合った瞬間、顔から湯気が出そうになって。
いくら演技だとわかっていても、こうまで言われて照れずにはいられない。
もしかして、私がドギマギしてるのをわかってて、それを面白がってやってるなんてことある?
どうだろう。
基本的にはいつも優しすぎるくらいなんだけど、たまに意地悪なことも言うし。だからってどSってわけでもない気はする。眼光は鋭いけど。
「いやんっ! よかったじゃん、ひなたっ」
「羨ましいデレっぷり。私も言われた〜い」
「いやあ、はっ、ははっ」
恭介さんがああ言った意図がわからないながらもとりあえずその場を笑って過ごせたのは、内心狼狽えまくっていたからだ。
そんなこんなで、まだたっぷり入っていたはずのカンパリオレンジは、あっという間に空になった。
最初のコメントを投稿しよう!